天狼のオオカミ 第二章 "狼の掟" 二


あんなにも冷たく果てしない一瞬間を味わったオレには、それから二年などという
月日はあっという間なものだった。
ガブはすっかり大人になり、オレの息子も配偶者を授かるまでに立派に成長した。

オレの、たったひとりの息子……。
あの夜、ヤギ達に殺されちまった子供のうち、奇跡的に生き残った子だ。
実はもうひとり、白毛の息子も大けがのさなか必死に命を紡いだのだが、間もなく天に召された。
健康に育ってくれたのはただひとり、黒毛の息子、イチ。
ガブと同じ様に、寝返りをうったのか兄弟たちとは少し離れた暗闇に溶け込み、
運良く見つからなかったんだ。
両親を失ったガブと共に、二匹はまるで兄弟の様に仲良く、オレの元で育った。
あんなに小さかったこいつらが、いつの間にかもうオレと背丈が変わらない。
二匹は立派に成長した。

ガブは昔に比べるとよく食べる様になり、狩りでも活躍するまでになった。
やはりあいつの息子。親から授かった運動能力は、偽りでは無い様だ。
ただ、狼らしからずな行動は相変わらずで、よくイチに叱られている。
勇気を出せばもっと狩りでの手柄を立てられるのに、昔からの怖がり症は今でも
群を抜いている。獲物に崖を跳ばれればそれ以上追えなくなり、
仲間が怪我を負うと獲物よりそっちを優先する。みんな、いっつも目を覆っていた。
ま、そんなトコも親父譲りなのだと、オレは思ってるんだがな。
それに比べ、イチの負けじ魂は明らかにオレ譲りだった。狙った獲物はどこまでも
追いかけ、小さな動物にも決して妥協しない。自分の身は自分で守るという
一匹狼的思考までも、オレにそっくりだった。
だが、イチは昔から付き合ってきたガブにすごく興味があるらしく、ガブから色々と
教えてもらっている様だった。月の暦や星座、そこから読み取れる天気や風。
それから、バクバク谷の狼がテリトリーとする行動範囲 そこここの地名なんかも、
オレが教える前にはもう知り尽くしていた。

 

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