天狼(てんろう)のオオカミ


プロローグ

真っ暗だ。
何も見えない。何も聞こえない。
ここにあるのは、全くの無だ。
さっきまで抱いていた煮えたくる怒りも、震える悲しみも、凍てつく恐れも。
もう何も無くなっていた。

けっ。雪崩に呑まれたっつうのに、身体がなんだか暖かくかんじるぜ。破裂しそ
うな肺の息苦しさも、今では遠のいているよ。

死ぬんだな。
そう思った。別に怖くなかったさ。今では全てを受け入れられた。

だって、もし助かったとしても、"あの日の約束"を守れなかったオレには、もう、生き延びる
価値などないのだから。

そう。結局オレは、何も出来なかった。たったひとりの親友のために、オレは、
何もしてやれなかった。

ごめんな。無力なオレを、どうか許してくれ。
風に乗って、今、お前のもとへ行くから……。

涙が頬をつたい、凍って、破れる。ギロはそっと目を閉じた。
大好きだった親友の星屑を、静かに心にかき集めながら。

 

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